黒髪の野乃

タイトル前の記号は、心への刺さり具合です

名刺代わりの小説10選

 

おことわり

Twitterハッシュタグで「名刺代わりの小説10選」てありますよね。

「好き」でも「おすすめ」でも「人生に影響を与えた」でもなく、「名刺代わり」です。一見些細なことですが、こだわって選んでいます。もし、「好き」なら小説家に偏りがでます。もし、「おすすめ」なら自身の趣向軽視、一般の趣向重視です。「人生に…」ならメッセージ性の強いものばかりになりそうです。

なので、「愛してやまないが載せないもの以外にももっと愛すべきものがあり断腸の思いで割愛しつつ大方このような小説が好みなのです」とお伝えしたいもののみ選びました。

わざわざこのような前置きをせずとも、「そんなことはわかってるさ!」という読書好きの方、お許しください。

 

米澤穂信ボトルネック

苦苦青春SFミステリーです。

主人公・リョウの代わりに姉・サキのいる世界へ迷い込みます。リョウの世界とサキの世界。その間違い探しの残酷さたるや筆舌し難いのであります!!

ネットの感想に、「鬱のときは読まないで」とか「落ち込み覚悟で読んで」とかよく見かけました。その点注意です。私は悲劇的なものが好きなので、大興奮でしたが。

特に、終わりの部分は素晴らしいです。リョウの選択は読者の想像に委ねられます。

 

米澤穂信儚い羊たちの祝宴

フィニッシングストローク短編ミステリーです。

傑作です。

短編でそれぞれ独立しながらも緩やかに繋がっていて、最後の短編に伏線回収、題名で伏線回収と二重に楽しめます。

優雅なお嬢様方の耽美なお話です。ぞくぞくします。

ちなみに、お気に入りは「北の館の罪人」です。

 

恩田陸「麦の海に沈む果実」

エキゾチック学園ミステリーです。

どこか異国情緒のある学園に時期外れな転校生・理瀬がやってきます。なぜ理瀬は特別なのか、失った記憶とともに学園の謎も解きます。

これは、とにかく、世界観の魅力に尽きます。物語展開はおいて。

個性満載な美男美女との寮生活、華やかなパーティーでワルツ、図書館のひっそりと隠れた一角…夢のまさに夢な生活に没入し、うっとりと味わうことができるのです。

 

綾辻行人十角館の殺人

新本格クローズドサークルミステリーです。

※「新本格」の定義、いまいちわかりません。

孤島の館へ7人の大学生が訪れ、やがて、ひとり、ふたり、殺害されます。

本作にはあまり言及しません。好きな点は、現代における純粋なフーダニットであることと、建築家が極めて変態だということです。

 

連城三紀彦「恋文」

ハートフル短編若干ミステリーです。

「ハートフル」だなんて安っぽい表現です。愛するがゆえに素直に生きない人々の、切ない心情が緻密に濃く、濃く描かれています。これでもかというほど、優しさの詰まったお話です。

ちなみに、「ピエロ」がいちばん心に残っています。

 

ユルスナール「源氏の君の最後の恋」

甲斐甲斐しくも甲斐なし恋物語です。

この世のラブストーリーで最も好きです。海外作品で最も好きです。

「東方奇譚」という短編集に収まっているうちの一つです。

源氏に恋した数多くの女人のひとりである花散里が、隠居し色恋を避ける源氏へ、工夫を凝らして逢瀬を重ねます。印象の薄い花散里のひたむきな想いは届くのでしょうか。

あらすじをネットで読んだだけでも、泣いてしまう作品です。

二人の駆け引きも面白い作品です。ぜひ、読んでいただきたいです。

 

東野圭吾「容疑者Xの献身」

ハウダニット対決ミステリーです。

高校教師の容疑者対物理学者の探偵の、隠蔽工作と推理対決が行われます。

ミステリーとしてたいへん秀逸なのですが、容疑者の恋愛による献身が、ただひたすら哀しいのです。恋愛小説としてみると「源氏の君」についで好きです。

ジレンマが訪れる終わり方に惹かれます。

ちなみに、西谷弘監督による映画もたいへん素晴らしかったです。

 

道尾秀介「向日葵の咲かない夏」

…ミステリーです。

首を吊った同級生S君に再び会い、S君の死の謎を解き明かします。

不快で不気味でおぞましく、後味悪い展開です。

たまらんのです。

 

福部まゆみ「この闇と光」

一粒で二度おいしいミステリーです。

盲目のレイア姫が父王に溺愛される様がありありと浮かび、美しい童話のような世界に耽溺できます。小説っていいなあとしみじみ思います。

前半と後半で翻ります。闇から光で。

 

久生十蘭「黒い手帳」

運命迷走ノワールです。

主人公の住む、階上にルーレットを研究し黒い手帳に記す男が住み、階下にその男の手帳を欲する夫婦が住んでいます。主人公はこの風変りな一部始終を見届けんとします。

階上の男の奇怪ぶりがほんとうに面白いです!男の運命の皮肉さと、手帳の運命の皮肉さが忘れられません。

 

おしまいに

「恋文」以外はあんまり気持ちの良い小説ではないです。お気を付けて。

愛は溢れんばかりですが、文の拙さを痛感しました。