△村上春樹「1Q84」を読んで
このボリュームゆえに、長年図書館で若干恨めしく眺めていた小説です。中学生の時、挑戦しましたが、青豆の1ターンしか読めませんでした。今回改めて読み始めると、謎で引っ張る展開なので案外するすると引き込まれました。
氾濫するテーマ
この小説のテーマは一言では表せません。宗教や時代、音楽、才能、哲学など多くのテーマが盛り込まれています。村上春樹さんの造詣の深みを小説を通じて伺い知ることができます。以下は一例です。
「人間というものは結局のところ、遺伝子にとってただの乗り物であり、通り道に過ぎないのです。彼らは馬を乗り潰していくように、世代から世代へと私たちを乗り継いでいきます。そして遺伝子は何が善で何が悪かなんてことは考えません。私たちが幸福になろうが不幸になろうが、彼らの知ったことではありません。私たちはただの手段に過ぎないわけですから。彼らが考慮するのは、何が自分たちにとっていちばん効率的かということだけです。」
突き詰めると、生命をつなげるのは、遺伝子がそう求めるからなのですね。人間本位ではないのです。及びもつかない冷酷さを感じた部分でした。
複雑なストーリー
主人公が「1Q84」というパラレルワールドへ迷い込むというのが大軸です。
しかし、不随するストーリーが幾重にもあり複雑なのです。それは、SFの世界観の設定と登場人物の個々のストーリーに分けることができます。
SF作品は、現実世界とはルールが違うので、どんな世界とルールなのか説明せねばなりません。本作ではそれが徐々に明らかになります。「リトル・ピープル」や「マザ」など、特有の名前が出てきますが、それらは論理的に説明し難いものばかりです。
登場人物個々のストーリーは、それぞれ奇妙で暗示のようです。この独特な奇妙さは村上春樹さんの作品に多い印象です。これは暗示なのか?と記憶に留めておいても、それを上回る強烈で奇妙なストーリーが次々と現れます。私はキャパオーバー。
不消化のミステリー
難解過ぎて、解らずじまいのことがたくさんあります。論理的ではないし、SFの世界観にしても超常現象としか言い表せないことばかりです。
本作には、作中作(空気さなぎ)や、様々な作品の引用が登場します。さらに、「小説に拳銃が登場したら、それは使用されなければならない」などの主張があります。1Q84の世界は小説かもしれない、より高次元の世界があるかもしれない、と示唆しているのです。つまり、読者の存在を感じるのです。
この構図は推理小説に似ていると思いませんか。
犯人役、探偵役、ワトスン役と、明快な推理小説は特に、「筆者VS読者」の構図が際立ちます。これを置き換えて「村上春樹VS読者」だとすると、このストーリーの暗示は何でしょう?だと思うのです。
しかし、推理小説ならタネ明かしで結ばれますが、本作は問いかけたままです。
後フラストレーション
個人的に村上春樹さんの作品の好きなところを挙げます。
- 哲学を考えさせられる点
- 造詣の深さ
- 堅実な生活の描写
- 突飛な展開と設定
- 翻訳を経たかのような文章
- なぜかモテる主人公
しかし、本すじと離れたや展開や回想、解決不可能の謎は少々苦手です。「1Q84」は特に、あゆみの登場やさきがけの宗教化の謎などてんこもりでした。もやもやが晴れません。村上春樹さんの他の作品を読んで、「論理ではない、理解が及ばないこともある」と自分に教訓が備わっていましたが、それでもやや疲れました…
私の読解力は歯が立たず、「1Q84」の大半を理解できていません。
私が思う、村上春樹さんの作品の魅力は、ストーリーではないのだと改めて感じました。